エピソード
アスペンで矯正の治療をした成人の患者様が米国に仕事で行った時、
ひとこと目に『歯並びが綺麗だね』といわれたと話してくれました。
そのアメリカ人が言うには、『そうなの、アメリカでは子供の体に対する親の三大義務みたいなものがあって、
[脊椎の矯正(脊椎湾曲)]・[視力]・[歯列矯正]は親がする大切な事項になっているんだよ。
だから親はそっちにお金をかけるから、服はジーンズで十分って感じかな?』
そこには、挨拶でキスをする習慣で口元がいかに大切かということもありますが、文化の程度の高さを感じます。
しかし、日本では、歯並びに対する意識は、最近になってやっと高まってきましたが、
現在成人になられた方々の小さい頃といえば、まだまだ低いレベルでした。
それは、小さかった頃のご本人の意識にも影響していたのではないでしょうか?
ご両親が矯正させようとしても、あのギラギラした金属みたいなのを口のかなに入れたら、友達と話も出来ないとか、笑えないとか色々理由をつけて拒んでいた方もあるでしょうし、
逆にご本人が小さい頃、例えば出っ歯やでこぼこの歯が嫌で矯正したいとご両親に言っても、「必要ないからやらなくていい」などと、意向を受け入れてもらえなかった等、
小さい頃に矯正するチャンスを逸してしまった方はかなり多いのではないかと思います。
大学生、社会人になり、『やっぱり矯正したいな』と思ったときには、
周囲の環境が矯正することに対して邪魔になり、会社で多くの人にお会いするので見えてしまっては困るとか、色々と障害になることが増えてしまっているのではないでしょうか?
この問題にかんしては、外観に触れない矯正装置は、取り外しの出来る透明なものなど新しい装置が色々と出てきていますから、人に多く会う方でも、ご本人の意向に沿うような治療方法は必ず見出せると思います。
前歯が出ていたり、歯がデコボコしていて放置すると、虫歯や歯槽膿漏症など、多くの歯周疾患が将来的に起きることは当然ですが、
これからのグローバル時代、いろいろな国の人と身近に接触する機会が益々多くなってゆく時、
歯並びのことで自分を積極的にアピール出来ないというような大きな精神的な問題が出てきてしまうことも十分に考えなければならないと思います。
先生の治療コンセプト
私が歯列矯正治療をさせていただく時に、
いつも考えている3大事項は
- 良い歯並び
- 良い咬み合わせ
- それから長持ちするために口が開かないところに歯を運ぶ
(口呼吸しないため)
です。
ただ歯並びを綺麗にしてステキな笑顔だけでは、将来の本当の意味での幸せは得られないと思います。
歯は消化器の一部です。
2番目の良い咬み合わせが出来ていないと、
例えば、前歯で切る、奥歯で咬みつぶすという作業、特に前歯で物が切れないから奥歯だけで咬んでいるという方は多いのではないでしょうか?
奥歯の咬み合わせもズレがあると咬みつぶす能率がかなり減少して、
お肉や繊維性のお野菜など、口の中で咬んではいるものの、いつまでも口の中に残ってしまうという経験がある方は、奥歯の位置のズレを疑わなくてはなりません。
このことは、消化にも悪影響で胃腸内での消化作業に負担がかかります。
若いうちは胃腸の活性が良いですが、年齢と共に、その活性が衰えた時、全身への影響として発現してしまう心配があります。
1番目の良い歯並びと2番目の良い咬み合わせが出来上がりました。しかし、いつも口が開いてしまい、口唇が乾く、あれる方は多いのではないかと思います。
口唇が乾いたり、荒れたりする人の歯は、多くが前突状態(出っ歯)です。
歯が出ているので口唇が開いてしまい、当然、鼻より口のほうが空気の吸い込みが楽なため、自然のうちに楽な方の口で呼吸を開始してしまいます。これが口呼吸です。
口唇はリップクリームを塗ればよいのです、歯肉は歯肉クリームなどありません。
歯肉が乾くと、赤く干からびたようになってしまいます。赤い歯肉はとうぜん炎症が起きています。
これは将来の歯槽膿漏症の一つの原因になってしまいます。
いくら歯がしっかりしていても、その土台の骨が退縮し、歯がしっかりと骨に植わっていられなくなり、ひどい時には抜け落ちてしまう場合もあるわけです。
私も出来る限り歯を抜かずに治療することを心がけていますが、必要な場合は歯を抜いて治療することもあります。
ただ単に歯を抜かないで治す先生が名医だという認識は危険だと思います。歯を抜かないで治せれば、患者様本人にとっても、たいへんハッピーであることは間違いありません。
しかし、ただ抜かないでというだけで、先ほどからお話している3大重要事項のうちの特に3番目が欠落し、将来的に大切な歯を比較的早い年令で失ってしまうようなことになると、今は良くても将来の生活、特に食生活は決して満足出来るものでなくなってしまいます。
矯正治療の説明
同じようなことを、治療方法、矯正装置、矯正器具の「適応症」という言葉で説明してみたいと思います。
単純にデコボコした歯並びを綺麗にすることを考えてみましょう。
なぜ、デコボコになるのでしょう。
答えは1つです。「場所がない」からです。
少々幼稚な説明ですが、私がよく診療室でお話することなのですが、中華料理屋さんに10人で行きましたが、そのお店には8人用の丸いテーブルしかありませんでした。
『せっかく来たんだから、それにお腹も空いているし』8人用のテーブルに10人が座りましたが、やはり並んでは座れず、はみ出したり少し斜めに座って食べたり・・・。これが、デコボコの正体です。
こんな場合もあります。10人用のテーブルは用意されていたのですが、お相撲さんが10人座ろうとしたらどうでしょう。
やはり同じことが起こります。このテーブルが顎の大きさ、座る人が歯です。そうです、「顎の大きさ」「歯の数」「歯の大きさ」この3つがデコボコに大きく関係しているのです。
それでは、10人の人がゆったりと綺麗に並んで食べられるようにするためにはどうしたら良いでしょう。
- 8人用のテーブルを10人用に大きくする。
- 8人用のテーブルに8人が座り、あとの2人は別のテーブルで食べる。
この①の治療方法を「歯列弓の拡大」といいます。
要するに、歯を綺麗に並べるために、歯列弓(歯並びによって出来る弓状の形態)を色々な方向への歯の移動により広げていく訳です。
デコボコ歯の治し方①
-
テーブルが小さいので全員きれいに並んで座れません。
前・横・後ろにテーブルを大きくします。
座るテーブルが大きくなれば全員座れるようになるわけです。
デコボコ歯の治し方②
テーブルが小さいので全員きれいに並んで座れません。
2人は別のテーブルに座ることにしました。
2人減ったので同じ大きさのテーブルにきれいに並んで座れるようになりました。
テーブルを広げて治した場合の注意点
テーブルを横方向に広げても十分な場所が得られない場合、前方向に広げる必要がでます。
その時、矢印で挟まれた分だけ、座る人(前歯)は前方向(出っ歯の方向)に出ていってしまいます。
→ 口元が出っ張る → 口呼吸の開始 → 将来の歯槽膿漏症の原因の一つになってしまう。
①は前歯を前方に移動させて、歯列弓を大きくし、場所を確保します。 前方拡大
②は横の方向に歯並びを広げて場所をつくります。 側方拡大
③は奥歯を後方に移動させて、歯列弓を大きくし、場所を作ります。 後方拡大
単純に①を行うと前歯が現在よりも前に移動しますから、前歯は前突してゆきます。
(前歯がさがりすぎている時や、前に広げても口が空いたりしない余裕がある場合は良いのですが・・。)
②は歯並びを横方向に広げて場所を作りますから、前歯は前突しません。
(デコボコの程度により、②で場所の確保が不十分な場合、①を余儀なくされる場合もあります。)
③は奥歯を後方に移動して作った場所を前歯の方に伝えて行かなければならないので時間はかかりますが、
前歯を前突させずにデコボコを綺麗にすることが出来ます。
(若年令層の患者さんに特に有効ですが、成人でも可能です。しかし、この目的のためには奥歯を後方に移動させる装置の装着が必要になります。)
様子はおわかりだとおもいますが、この「拡大」によってデコボコを改善していくとき、
「今まで良い位置にあった前歯が出っ歯になってしまわないか」が最大のポイントになるわけです。
これが、
- 歯並びは良くなったが前歯が何となく出てしまったような気がする。
- 何となく、口唇が以前より乾くようになった。(口呼吸の開始)
といった状態です。
前に説明した将来の歯の長持ちに問題が出ると同時に、審美的にも口元が出っぱった感じになってしまいます。
取り外しの出来る透明なキャップ状の矯正器具も多く出回っていますが、多くがこの拡大の方法を応用したものです。
そこで、出てくるのが「適応症」という言葉です。
この種の矯正器具の場合、横や前方向に歯並びを拡大しても前歯を前突させずにデコボコを改善出来れば適応症です。
少々過激な方法ですが、拡大によって、前歯を前方に突き出さないように歯の大きさを小さくして
(歯の両サイドをかなり削ってサイズを小さくするディスキングという方法)
歯が綺麗に並ぶ場所を確保する場合がありますが、歯の非常に硬い部分であるエナメル質がかなりの量失われ、
将来の虫歯の原因や、天然さを失った歯の形態にしてしまうことにより、治療後、歯並びは良くなったけれど、何か笑った時、変な感じがするといった問題が生じてしまうことがありますから、
そうした方法をとる場合には、その点を先生に十分に確認しておく必要があると思います。
見えにくい矯正の考え方
「見えにくい矯正」、魅力的ですね。
最近ではむしろ『矯正やって楽しんじゃえ!』ということで、色々な色でカラフルに矯正を楽しんでいる方がどんどん増えていますが、「どうしても見えては困る」という方に提案です。
通常お話をしたりするときに見える歯はどの辺りか思い浮かべてください。
そうです、上顎の犬歯(糸切り歯)から反対側の犬歯までの6本が見える程度が、日本人の平均ではないでしょうか?
ですから、下あごの前歯や、上下の奥歯はよっぽど大きなお口を開けない限り見えません。
舌側にする矯正(リンガル)は、費用的にどうしても高くなってしまいますから、目立ちやすい上顎は舌側、下顎は透明素材を使って外側で矯正する。
この方法で矯正している方はかなり多いのではないでしょうか?
費用的にも上下顎舌側の半分の追加料金ですみますし、外見的には殆ど見えません。
私の診療室でこの上顎だけ舌側のハーフリンガルをおやりになった方で『下の歯もやっぱり見えてしまうので、下あごも舌側にやり直して欲しい』という方は、いらっしゃいません。
ということは、審美的には、十分ご要望にお答え出来ると言って良いのではないかと考えます。
これから治療をお考えの皆様へ
20代、30代のうちに、矯正治療によって、「ステキな歯並び」と「良い咬み合わせ」を獲得しておくことによって、
美しいフェースラインや口元、ステキな笑顔で毎日を当たり前にグレードアップして生活することが出来ると同時に、
「能率の良い咬み合わせ」にしておくことによって、
若い頃はもちろんのこと、年をとったときにも「充実した食生活」を送ることが出来るようになります。
この充実した食生活は、若い頃には気にもとめないような事柄ですが、
多くの人が「若い頃の不十分なお口のケアー」によって、年をとってから不便な毎日を送る事になってしまうことに気付いていらっしゃいません。
とのことは食生活のみでなく、寿命という問題にも大きく関係しているのです。
一見、歯並びはきれいに見えている人で、前突(出っ歯)と口元の突出に気付いていない人が以外に多くいらっしゃいます。
『これが自分の顔つきだ』『親に似て・・』と片付けてしまっている場合がそれですが、
歯の矯正で、前突している前歯を後ろに下げることによって、機能的に口での呼吸をしないようにしたり、良い咬み合わせにすることで、今まで苦労して咬んでいた少々硬い食べ物を平気で食べられるようになったり、
更に、審美的に美しい横顔を得ることが出来るということを、もっと当たり前に知っておいていただきたいとおもいます。
矯正治療は、お口の文化です。
質の高い文化をご自分に合った最適な方法で作り上げていきましょう。
ご自分に合った最適な方法で
素敵なお口を作り上げていきましょう。